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2009/05/15

Vol. 11 「京野菜で、世界平和を」棚橋俊夫

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棚橋俊夫/是食キュリナリーインスティテュート
1960年、熊本県生まれ。筑波大学で農業経済学を専攻。「哲学は机の上ではなく生活の中にある」ことを学び、料理の世界で実践することを志す。27歳から3年間、滋賀県大津市の禅寺「月心寺」の村瀬明道尼のもとで修行。1992年、表参道に精進料理の店「月心居」を開く。著書に「野菜は天才・SHŌJIN」(文化出版局)、「野菜の力 精進の時代」(河出書房新社)がある。これまで「和樂」や「AERA」をはじめとする雑誌、The New York Times(米国)、The Sunday Times(英国)、The Japan Times、The Financial Times、Telegraph Magazine、朝日新聞等に記事が掲載される。2007年12月、信念を全うすべく、15年をもって「月心居」閉店。
2008年2月、「是食(ぜくう)キュリナリーインスティテュート」を立ち上げ、「21世紀は野菜の時代」と信じ、精進料理をとおして、野菜の素晴らしさや心身共に豊かな生活を提案するため、国内外で意欲的な活動を続けている。2009年4月より京都造形芸術大学にて「食藝プログラム」の教鞭をとる。

 五感すべてで楽しめる料理や食の世界。それは瞬間で姿が消えるが、いつまでも印象に残る、刹那的ドラマでもある。「人と人」の一期一会は「人と素材」にも通じ、命をつないでくれる食材に感謝の気持が湧く。

 私は肉、魚もいただくが、何よりも野菜を好む。大げさに聞こえるかもしれないが、野菜や果物は人類にとって、神、仏と同じ奇蹟の賜物と信じている。植物は水、空気、お日さんで野菜や果物を作るが、我々は「トマトひとつ、よう作れない」のである。

 我々ができないことをやってのける植物は、さらに苦を受けながらも黙って喜びを与え続ける。春は芽のもの、夏秋には実のもの、冬には根のもの、さらに一年を通して葉のものと、全身全霊で飽きさせず、絶やさず我々の命をつないでくれる。それこそ、最も現実的で最も身近で尊い、偶像ではない生の神、仏ではないだろうか。簡単に言えば植物なくしては人間も動物も生きてはいけないのである。真の神、仏は我々の命と一体であり、今、息できるのも彼らのおかげである。

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 木にふれたり、新緑が目に映ったり、精神的にもどれほど癒されているかわからない。ガーデニングや畑作業で土いじりするとストレスが解消される。植物に触れ、土に戯れることが心地よいのは我々の遺伝子の中にしっかり記憶されているからであろう。心や体が病んでいる人が急増している。植物に向き合い、その恩恵をたっぷり頂くことが回復への大きな力になるはずだ。

 京都は幸いにも緑の山々に囲まれ、清らかな水が流れ、気が澄んでいる。この豊かな土地で育まれた野菜たちは古来、お百姓さんの努力と人々の高いセンスによって高品質のものを作り上げてきた。
 暑い時期には「とうがらし」がよく出回る。一般的には辛いだけの赤いとうがらしを連想するが、京都では緑色の大ぶりの甘とうがらし。焼いたり、揚げたり、煮たり、ビールをぐっとやれば、口中が爽やかになる。万願寺、伏見、田中、山科、鷹ヶ峰。これらはみな、とうがらしの種類であり、産地の地名から名付けられている。形、大きさ、時期、味が異なり、その土地ならではの産物となっている。狭い京都の中で、これほどの種類のとうがらしが区別して食されることに驚かされる。


 最近では名ばかりの京野菜が全国に出回っているが、それだけ古くから京都には野菜文化が発達した証でもある。まさに京ブランド。京都の人たちに愛され、生活の中に根付いた野菜文化。例えば、夏越の祓、6月30日に小豆の入った三角形の餅、水無月を頂き、冬至には南京を食べ柚子風呂に入る。今でも季節に敏感で、食いしん坊も手伝って伝統を守り、若い人たちに受け継がれる様子はうらやましく、かつ京都の奥深さや重さを感じる。

 また、京都を訪れる度に感じるのは「上質で上品な雰囲気漂う、京都のオリジナリティ」が、常にあるということだ。古きよきものを生かしつつイノベーションしているから、そこには変わらぬ価値がある。私はそこに「お洒落」を感じる。例えばCOCON KARASUMAもそのひとつだが、烏丸通の建造物やお店には、古い建物を生かしながら再設計しているものが多い。烏丸通は元々ビジネスの中心ではあったが、最近では伝統を生かしながら洗練された要素も加わり、京都からの文化発信の中心にもなっているのではないだろうか。

 さて今、私は京都造形芸術大学で「食藝」の授業を行っている。「食」についてイマジネーションを働かせ、クリエーションをもたらす授業だ。頭でなく体で感じ、身についていったものが文化である。授業では座学だけでなく様々なことを体験しながら五感で学んでもらう、まさに、おいしい授業を目指している。是非、若い人たちにも、食がもたらす無限の可能性を感じてもらいたい。

 60兆個の細胞から成る人間が、世界全体で約70億人いる。我々にはその細胞ひとつひとつが喜ぶ食をつくる使命があると考えている。私は周りにいる皆様と共に、時にはご指導いただきながら、食が平和をもたらす日を、そしてその発信基地が作れる日を、いつも夢見ている。京都にはその地盤とヒントがたくさんある。



是食キュリナリーインスティテュート(ZECOOW Culinary Institute)

唐長文様「天平大雲」